
RPG Maker WITHが2024年4月に発売されました。国内ではRPGツクールシリーズと呼ばれることも多い、RPG Makerシリーズの中でも、家庭用ゲーム機としては前作「RPGツクールMVTrinity」から5年ぶりの新作となりました。
そんなRPG Maker WITHは、同制作シリーズでは珍しく、前作RPGツクールMVTrinityと同じ家庭用ゲーム機機種での販売となりました。ゆえに全ての機能がパワーアップしている……と思うかもしれません。しかしRPG Maker WITHは前作のユーザーの声を反映したのか、「安定&高レスポンスを目指した」方向に大きく舵を切っている印象があります。ゆえに、向上している点も多い反面、一部できなくなってしまったこともあります。
そこで、このページでは、前作RPGツクールMVTrinityの特徴とRPG Maker WITHの特徴を紹介しながら、具体的に良くなった点、できなくなってしまったことを紹介していきます。なお、本情報は2025年1月時点の情報となります。サービスや本体のアップデート等で変わっている可能性もありますのでご注意下さい。
2018年に公開された『RPGツクールMVTrinity』は、PC版の『RPGツクールMV』をコンシューマー版に移植し、PC版のイベントコマンドなどをそのまま移植した高レベルな機能を移植していました。それゆえに、RPGツクールMVTrinityのゲーム制作者がPC版に挑戦しても同じ感覚で制作ができたり、PC版で人気のキャラクター生成機能などが使えると長所があります。
一方で、その複雑さゆえに問題点も多く抱えていました。特に一番問題視されたのがレスポンス面(反応や処理速度)です。一部機種ではレスポンスの反応が悪く、誤操作や大きな待ち時間を招いてしまうというような問題も抱えていました。さらに、複雑な機能が多かったゆえに発売直後ではバグが多く、批判が広がってしまいました。また、家庭用ゲーム機特有の表現規制もあいまってしまい、公開してから規制文字が発覚してうまく表示できない、使用できない素材が収録されてしまったなど大きな問題もかかえてしまいました。
加えて、ログインボーナス等や、1アカウント1作品のみしか公開もできない。さらにPC版に寄せたがゆえに、ゲーム機では入力しにくいと言った不満も多くありました。
総評としては、全体を通じて挑戦的な制作ツールとして発売されながらも、それが裏目に出てしまったという印象です。とはいえ、PCでの制作の足がかりに繋がるような側面もあるため、近い将来PC版での制作を考えており、少しでも機能を理解したいという方向けの入門機という立ち位置の制作ツールな印象です。
一方で、2024年に公開された『RPG Maker WITH』は、PC版の『RPGツクールMZ』(MVの後発機として発売されたもの)をベースにしていますが、家庭用ゲーム機での制作に最適化して移植。MVTrinityのユーザーから多く聞かれた『レスポンスの悪さ』や『投稿数の問題』『禁止文字の確認』『ゲーム機特有の入力しやすさ』などの問題に大きく取り組まれています。
具体的には伏せ字になってしまう禁止文字を入力時に確認できる、スティックとサブメニューを活用したショートカットキーの充実。スライドされていくことで展開するメニューなど。家庭用ゲーム機の少ない入力ボタン(コントローラーのボタン)を意識しながら作りやすさを追求し、さらに問題となっていた表現面にも着手。3DS等と比較すると、インディーズゲームなどを見ても重くなってしまいがちなNintendo Switchであることを考えると、まずまずのレスポンスに仕上がっています。
また、PS4版・Nintendo Switch版のクロスプラットフォームも対応になりました。RPGツクールMVTrinityではPS4版はPS4版、Switch版はSwitch版で作られて投稿された作品しか、そのハードでは遊ぶことができませんでした。RPG Maker WITHはPS4版で作って投稿した作品をNintendo Switch版でも遊べるようになったため、投稿作品を別ハードのユーザーにも遊んでもらうことができるようになりました。
一方で、一部コマンドの廃止や人気のキャラクター生成機能(パーツを組み合わせてオリジナルキャラを作れる機能)の廃止が行われています。
ゆえに、完全な進化版ではなく、とにかくユーザーがゲームを作る事ができる楽しみに特化した形で進化したという印象があります。家庭用ゲーム機で特にNintendo Switchというレスポンスに課題が残りやすいハードも対応しながらも、うまく最適化しているというような傾向があります。
以上の理由より、RPG Maker WITHは家庭用ゲーム機の範囲で制作を完結したい方や、よりゲーム制作初心者向けにオススメなRPGツクールになっている印象があります。
では、より具体的にできなくなったことについて紹介していきます。
RPGMVツクールTrinityでは、キャラクター生成機能という各顔のパーツや複数を選び、顔グラフィックや歩行グラフィックが作成できるという機能がありましたそれゆえに、オリジナルに近いようなキャラクターが生成できるというメリットがありました。この機能がRPG Maker WITHでは廃止されています。
この点については、オリジナルキャラクターが作れなくなったという問題点を上げる方も多くいます。一方で、キャラクター生成ツール自体はあくまで組み合わせでの制作となります。パーツのベース(輪郭)が多いわけではないので、ある程度ゲームプレイを重ねていくとオリジナルキャラクターに見えにくいという難点もあります。実際にPC版では歩行グラフィックは使用頻度が高いものの、顔グラフィックはある程度の作品になると使われていない傾向が強い印象があります。
さらに、この問題としてユーザーとしてよく言われていたのが「使用できる素材が少ない」という問題です。RPG Makerシリーズはゲーム制作ツールの中でもかなり素材が多い方ですが、どうしても前作と比較がされてしまいました。
ですが、メーカーとしてもこの問題の対処なのか、発売と同時に300キャラクターを超える、PC版RPGツクールMZのキャラクター生成機能で作られたキャラクターと思われるキャラクターの配布が行っています。
この点はクオリティに制限がある中でも自分のイメージに近いキャラクターの容姿を作りたいか、それともすぐに使えるキャラクターが多いほうがいいのか。プレイヤーの方針によって、大きく評価が分かれるように感じます。
PC版のRPGツクールMZをベースにしているRPG Maker WITHですが、一部機能が移植されておりません。PC版には搭載されており、MVTrinity時には移植されていたコマンドがRPG Maker WITHでは未実装になっているものがあります。例えばキャラクターグラフィックを薄くできる不透明度の設定や一歩前進するような移動周りの細かい機能がなくなっています。
しかし、できなくなったことばかりではありません。色々とできるようになったことも多くあります。
RPGツクールMZから復活したレイヤー機能がRPG Maker WITHではしっかりと移植されています。これはマップの装飾に役立つ機能で、意図した形でマップデザインがしやすくなりました。
近年のRPG Makerでは、1マスが複数の層(レイヤー)で構成されており、複数のタイルをそれぞれの層に配置することで最大4枚の画像で構成された1マスを作ることができます。RPGツクールMVTrinityでは、この層を自動的に決めて配置するモードしかありませんでしたが、RPG Maker WITHでは自動で配置するモードの他に、どの層に配置したタイルを編集するかを切り替えることができます。
例えば、床の上に壺や机と言った装飾を置いたあと、床だけデザインを変更したいとき、床が配置されているレイヤーに切り替えてそのデザインだけ変えれば、床の置き直しだけでデザインの修正ができます。
文字を入力すると、その場で禁止ワードが伏せ字になります。すぐに文字の置き換えに着手できるため、公開してから文字を確認する手間を省けます。
ゲーム投稿以外にも「アセット」を投稿、ダウンロードできる機能が増えました。他のユーザーが作成したコモンイベントやマップ、色々なデータを自身の作品で使うことができます。
複雑なシステムも自作する必要がなく、変えるべき変数の箇所などの表記を元に調整していくことで導入できるようになり、ゼロから作らなくても良いという良さが出ました。また、マップなど大量に使用が求められる制作時間もアセット利用によって時間短縮ができるようになっています。
作った作品の公開が5作品まで無料でできるようになりました。RPGMVTrinityでは1作品縛りであり、過去のツクールでは1作品目移行は課金と言ったケースもあったため、最初から複数投稿可能な点は非常に進化していると感じられます。
さて、ここまでRPG Maker WITHを過去作と比較してきました。とはいえ、多くの方が気になるのは「率直に買うべきなのか?」という話でしょう。
率直に過去の家庭用ゲーム向けのツクールを買うのであれば、RPG Maker WITHの購入がオススメです。多少の制限こそ入りましたが、RPG制作は判断や機能把握も重要です。複雑な作品を作りこなすには、まず基本の使い方を理解していくことも重要です。また、公開した作品を遊んでもらうにしても、ゲーム自体の反応は重要な指標になります。
そういった点で、制作面・プレイ面でのレスポンスに大きな改良の入ったRPG Maker WITHは、まさにRPGツクールの長所を伸ばしています。公開後大きな問題もなく、かつ過去作と比べて公式アカウントでもユーザー作品の紹介投稿なども多く、家庭用ゲームでのツクール製品の中でも完成度の高さを感じさせてくれます。
また、MVTrinityと比較するとできないこともありますが、それでも多彩なコマンドでオリジナリティを出すことは可能です。一般的なRPGを作る機能は一通り揃っています。家庭用ツクールはどうしてもゲーム機の制限があるため、MVTrinityでも若干自由度が上がるだけと考えると、わざわざ他のマイナス点が多いMVTrinityを選ぶ必要もないでしょう。
とはいえ、RPGツクールは2Dのゲーム制作ができるツールのため、ゲーム制作初心者の方だと制作できるゲームに食い違いが出る可能性もあります。エディタもうまく扱えるか不安に思う方もいるはずです。
RPG Maker WITHに興味が湧いたら、まずは買うのではなく体験版を試すのがおすすめです!体験版では、実際にお試し制作ができたり、他のユーザーが実際に作った作品をダウンロードして遊べる機能がついています。体験版で制作したデータは製品版でも引き継ぐことが可能です。
まずは体験版でお試し制作や投稿作品をプレイして、自身でも制作できるかイメージしてみるといいでしょう。
体験版での制作は、独自の解説動画も公開していますので、参考にしてみて下さい。
以上の通り、RPG Maker WITHは必ずしも全面進化しているわけではなく、機能を取捨選択してとにかく作れる、完成を目指しやすくするという方向にシフトした印象があります。
もともとRPG Makerは、RPGのシステムが完成しているからこそ作りやすいというのが特徴でもあります。完成しているということは設定できる項目が少なくて済むという反面、隙間は少ないので独自のカスタマイズがしにくいという短所もあります。どうしてもRPG Maker はシステム開発が複雑になりやすいメニューや戦闘が完成しているゆえにこれらの要素は自由度が低めになりがちです。これは短所ではなく、それゆえにデザイン面やシーン変化に伴うデータの受け渡しと言った複雑なプログラミングをしなくても良さを再現しています。
ゆえに「自分がイメージしたゲームシステムやデザインを忠実に再現したい」という人よりかは「自分の思い描いた世界やストーリーをゲームとして動かしたい」「専門知識がなくても遊べるゲームが作れる」という過去から続いているシリーズの魅力をうまくまとめているのではないかと思います。
自由度がなくなったと思う方は、ぜひPCでのゲーム制作やスマホ向けのゲーム制作ツールを試しましょう。家庭用ゲーム機というメーカーの責任が大きいもので出ている以上、かごの中での自由度というのは変わりません。でも、それゆえにその中でどう自由度を出せるのかという楽しみもありますし、自由には責任も伴うのでこの比率バランスがいいのも家庭用ゲーム機での制作の良さでもあります。
また、RPG Maker WITHは初動がうまくいっているようにも見えます。基本的にはWITHが今後のスタンダートになるような印象もあるため、作品公開で色々な方々に遊んでもらいたいのであれば、RPG Maker WITHに移行していくのがオススメな印象です。
RPG Maker WITHはNintendo Switch向けソフトです。
パッケージ版を探す場合は、色々なサイトを見て値段チェックするのがおすすめです!